『天空の蜂』ツッコミ不在で原発いじり。ボケ倒し不謹慎コメディ。

tenhachi

『天空の蜂』

2015・日

堤幸彦

IMDb 6.2

Filmarks 3.6

不可

あらすじ:原発にヘリが落ちそうでヤバい。

ザックリと感想を

非常に品のいいコメディ作品でした。

昨今の日本では作られないボケ倒しコメディの佳作。

あからさまに面白いげな行動をとるのではなく、あくまで劇中の人物たちが真剣にふるまうからこその可笑し味に満ちていて思わず笑ってしまいます。

チャップリンの名言「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」を堅実に守った骨太なコメディ。

品のいいコメディ

近年日本で作られるコメディ作品としては、三谷幸喜作品や古沢良太作品、知名度は下がるが品川ヒロシ作品などがある。

しかしどれも品がない。

登場人物たち全員があからさまに「私は面白いことをしています」とアピールしてくる。

“笑われる”のを恐れているかのように、これはギャグで笑わせるためにやっているんですよと全力で訴えてくる。

終始面白げな雰囲気を漂わせたり、つっこみでギャグを説明したりと、まるで観客にはどうせ高等なジョークは伝わらないと思っているかのようだ。

それに比べて、天空の蜂は非常に上品なギャグでまとめられている。

やはりコメディ映画の 基本は、作中の人物は真面目に取り組んでいて、それをスクリーンを隔てた観客が笑うというものだ。

本作では、面白げな空気やツッコミによるギャグの説明を 一切排し、観客は笑いを分かってくれるという信頼をもとに作品を作っている。

日本のコメディに面白いものはないと高をくくっている人にこそ見てほしい。

ヤフーレビューなどで高評価なのも納得の良作だ。

“ 邦画らしく”をパロディとしてやりきる

本作は、映画通でなければ、いわゆる“邦画らしい”駄作にも見えかねない。

しかし、これはあくまでパロディとしてやっているだけだ。顔の筋力の使い方こそ演技力だと思っている無能な監督とは違う。あくまでギャグとしての“邦画らしさ”を盛り込むことで、高尚なコメディへと昇華させているのだ。

いわゆる力演や、昭和みたいな壊れた家族、メッセージを絶叫して訴える。そんなダメな邦画の要素をあえてぶち込むことでネクストレベルの笑いを提供してくれる。

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まとめると

さすが堤幸彦!と唸るほかない傑作。

『20世紀少年』の時は、シリアスがうまくないとも思ったけど。『トリック』や『ケイゾク』で見せたコメディセンスを、こんな不謹慎な題材でブラックコメディに仕上げるなんて、笑いに魂を売った人でなしだ(褒め言葉)

次回作でもキレッキレの笑いを提供してほしい。

↓ ネタバレ感想 ↓

一見、真面目に核使用について考えるサスペンスアクションかと思いきや、中身は登場人物全員がボケ倒して誰一人てつっこまないコメディ作品である。

ファーストシーンからボケ倒しが始まる。

妻子を職場見学に連れてきた江口洋介に対して入口の警備員が一言「家族サービスとは羨ましい(冷笑)」この後一切登場しない警備員に無駄なインパクトをあたえ退場させる。高度なボケ。

この一家、家族関係に問題アリでかなり冷え切っているご様子。

江口演じる父親は子育てに自信がなく、離婚も検討中。

それを同僚に打ち明けているとそれを息子が聞いてしまうとう場面。

通常は、胸のいたむシーンだが、本作では、息子が後ろにいるのに気付かず話を続けてしまう。

しかも距離がちかい。江口ーッうしろーッ!うしろーと言いたくなる。

堤幸彦監督は気取った演出ばかりすると思っていたが、なかなか古風なコメディセンスに好感が持てた。

アクションが始まってからもシュールな光景はとまらない。ヘリが自動操縦で飛び立とうというとき、子供が二人 機内に取り残されてしまう。

父親の江口洋介がそれを追いかけ、飛び降りろとに呼びかけると一人が飛び降り、なぜだかもう一人が降りられない。たいした高さでもないし スピードが上がったように思えないが飛び降りない。取り残されないと盛り上がりに欠けるんで、と無言で主張するようで非常に愉快。

その後、テロリストからの要求があり、専門家たちが召集される。原発専門家モックン登場。会議に割って入って自己紹介よりも先に、だれも訊いてもいない原発豆知識を披露しだす。変人だ。

スクリューボールも完備しているとは監督はコメディに対するこだわりが深い。

変人といえば、刑事役として手塚とおるが輝いている。実写映画だとか刑事役だとかはお構いなしに、いつものあのテンションの演技をぶち込んでくる。

いまにもソニーVAIOのCMが始まりそうな躍動感だ。

一見家族ドラマを感動的に描いている。しかしその家族の定義が的外れという肩すかしギャグも冴えていた。

子供が棚を蹴っていてうざいと思っていたら実はモールス信号だったとわかる。コ・コ・ニ・イ・ル、ここにいるって、そりゃわかるよドカドカうるせぇから。

妻が夫に訴える内容が度をすぎていて、「家族ってのは血反吐をはいてやっとてにはいるものなのよ」いったい観客の何割が同意したろうか。

言葉によるギャグだけでなく、ビジュアルでのギャグも冴えている。

犯人から熱画像が送られてきて、どう見ても原発を上空から見た熱画像なのだが、専門家集団がなぜだか気が付かないご様子で、わざわざ地図を持ち出して重ねてみて驚くというくだり。この映画で一番の爆笑を生んだ。

そこまでしないと気付かないのかよ!

綾野剛演じるテロリストが警察官と手錠でつながれてしまい、それから逃げるためにナイフを取り出す。

死亡している警官の腕を切るのかと思わせておいて自分の親指を切り落として手錠を外すのだ。少しグロいが体を張ったギャグとして新鮮な描写。

さらには死体を労わって、自分の親指を切ってまで逃げ出したのに、直後車に轢かれて即死。ブラックな笑い。

また、コメディなのに原発をテーマにあつかうのはそれ自体がギャグみたいなものだ。おそらくシンプソンズのオマージュだろう。

終盤、モックンが真犯人だと発覚するが動機もまたシュール。

息子が自殺したことが動機なのだが、自殺の原因は、父親が原発関係者だからと子どもたちにいじめられた末のことである。

モックンは息子を殺した原発に恨みを持ち、問題提起のためにテロを画策する。

ここで誰しもが、それっていじめが原因じゃね?と思うだろうが、劇中だれもそれにツッコミを入れないことでブラックな笑いへと昇華させている。

エンドロール後には311の様子が描かれている。

コメディ映画で東日本大震災を描くというギャグは、311特集を組んだりする浅はかなマスコミへの皮肉だろう。

コメディ映画としては2時間超えの長尺なのが欠点だが、ここ数年の日本産コメディとしてはトップレベルの出来であることは間違いない。一見の価値ありだ。

これがコメディでないとしたら、よっぽど的外れな演出ということになってしまう。