『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』人生が固定されるまであと三日。

『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』

Everybody Wants Some!!

2016・米 リチャード・リンクレイター

IMDb 7.1

Rotten Tomatoes 87%

あらすじ:野球奨学生で大学入り、始業まであと3日。

渋谷ユーロライブでの試写会で鑑賞。

ザックリと感想を

リンクレイター監督のファンには間違いなくオススメです。ビフォアシリーズのような含意に富んだ会話や、時代性を反映した音楽使い。キャラクターの実在感。リチャード・リンクレイターのベスト盤といった味わい。

過去作を見たことがない人にもわかりやすいコメディとして楽しめるはず。小気味いい会話や、エグすぎない下ネタジョーク。要所要所で笑いを生む変人たちなど、コメディとしても一級品。試写会場は終始笑いに包まれていました。

ただし、面白い話というよりは楽しい時間といった感じであまりメインストーリーのある作品ではありませんのでご注意を。

切り取られた時間

リンクレイター監督の過去作、ビフォアシリーズでは、束の間に交わされる二人の会話から恋愛観、人生観が見えてきた。

本作は打って変わって、野球部の大学生、しかも80年代という最高に能天気な奴らのバカ話がわらえるコメディになっている。

しかし、その益体もない話ばかりをしていても、端々に各々の人生観をのぞかせたり、抱えているものがあることがわかる。しかも、大学の開始まで3日しかなく、カウントダウンのように時折表示されるのが妙に物悲しい。

生き方を支えるもの

女の子を口説いたり、いかにタダ酒がのめるか奔走した、マリファナ吸ったり。

そうやってお気楽に人生を謳歌しながらも、ちょっとした会話から、彼らなりの考えが透けて見えてくる。人生設計や宗教観にいたるまで、生きていくうえでの糧はそれぞれだ。

一見狭い世界の短い話のように見えて人生すべてを包括したようなテーマ性を持つのもリンクレイターならではの奥深さだと思える。

まったくトーンは違うけど『桐島、部活やめるってよ』のような寓話性も感じた。

音楽

80年代が舞台ということもあり、ファーストシーンは、My Sharonaから始まる。もちろんカーステレオはカセットテープだ。

大学の入学準備に際して初対面の奴らと仲良くなる方法は、車の中で歌を歌う。それだけでもう親友だ。いくぶん強引な感もあるが、音楽の高揚感と、パートわけがチームワーク抜群に行われていたり、なにより男たちの楽しそうな顔。それだけで納得させる力がある。

「My Sharona マイ・シャローナ」が流れる映画を集めてみた。
「My Sharona マイ・シャローナ」が流れる映画を集めてみました。 My Sharonaから始まる映画『エブリバディ・ウ...
スポンサーリンク

まとめると

ぐだぐだとな会話と笑えるジョーク、爆笑をさらう変人、ぐっとくる音楽。3日間だけの出来事、いつまでででも一緒にいたいと思えるそんな人生の隙間を登場人物と一緒に体感できる時間だった。

↓ネタバレ感想↓

主軸となるお話はないので、印象に残った場面紹介みたいな感じで。

マイ・シャローナを聞きながら、主人公が大学の寮へ向かう始まり。

ジェイク(ブレイク・ジェンナー)は、野球で奨学金を獲得した大学へ進学。

新学期の準備をするため、寮へ引っ越してきた。始業まであと3日。

字幕で、始業開始までの時間が表示される。

最初はあと3日かー、とのんきに見ていると、どんどんと時間が短くなり、最後の字幕だけカウントダウンが追加されていて、あああああもうかけがえのない時間が終わってしまうぅぅって気づかされる。

過ごしているうちはその時間の大切さに気付かず。終わりになって初めて身につまされる。人生とおんなじ!

寮に到着すると、先輩も新入りも関係なく早速打ち解けてしまう。

体育会系の上下関係は感じさせない。

車内で歌を歌えば親友。

女子寮まで、ドライブしていき、車内でラップを歌う。初対面なのに全員この曲が歌えるし、なおかつパート分けが完璧。もうこれで親友だ。

はっきりいって音楽の力でゴリ押しとしかいえない。

しかし本当に楽しさで押し切れてしまうのがすごい。超楽しい。

その後は、自堕落に過ごしたり、酒を飲んでだべる。マリファナに興じる。といった益体もない時間が過ぎていく。

ただの駄話から人生観が見えてくるのは、リンクレイターの真骨頂。

大学の野球チームのメンバーは考えがそれぞれ違っている。

フィネガン(グレン・パウエル)はいつもナンパのことしか考えていない女ったらし、しかし将来設計については、プロにはなれるとおもっていない、現実思考だ。

映画終盤で、ヒッピーかぶれのウィロビー(ワイヤット・ラッセル)が実は30歳であることが発覚する。各地の大学を転々とし、経歴を偽って学生を続けていた。 モラトリアムを引き伸ばし、大人になることを拒否しているかのよう。

地方から進学してきて、田舎の彼女の妊娠して大学にはいれらないとこぼすやつがいたり。

地元校では剛腕ピッチャーとして名をはせ、大学野球で鼻っ柱を折られる奴。

人生の岐路での体験がいろいろと盛り込まれている。

中でも印象的なのが、彼らがまことしやかに語る“伝説のスカウトマン”の話。

そのスカウトマンは、変装の達人で、どんな姿にも化ける。

今日も練習風景を見に来ているという。

見渡してもだれもいない。指差すほうを見てみると、隣の家でペンキを塗っている作業員がいた。

ジョークだとおもってジェイクは笑う。

それを真に受ける者もいたため、思わずジェイクも確認してしまう。

「スカウトマンなんていないよな、からかっただけだよな」

すると先輩方は、「悪いか?」

と一言だけ言って話は終わってしまった。

結局存在するのかしないのか。

ただいることを期待して生きていたほうが豊かになれる存在。何か宗教的な支えや、人生の希望そのものを象徴していう量なお話だ。

『桐島、部活やめるってよ』でも野球部の先輩がドラフトが終わるまでは引退しないと言っているシーンがあった。

実際に叶うかどうかではなく、希望を抱くこと自体を心のよりどころにしているとわかる場面だ。

奇しくも野球つながりで同じようなテーマを描いている。

ギリシャ神話の、シーシュポスの岩について話す場面でも人生観が垣間見える。

シーシュポスは神を欺いた罰として、巨大な岩を山の上まで運ぶ苦行を強いられる。

岩を運び終わり山頂の乗せると、岩は途端に転げ落ちてしまう。シーシュポスはそのたびに岩を運び、その苦行が永遠に続く。

英語圏では、徒労やむなしいといった意味でつかわれる。

日本で言えば賽の河原だ。

ジェイクは奨学金を取るとき、シーシュポスの岩と野球を絡めた小論文を書いた。

シーシュポスと同じように野球も、傍から見ると徒労のように見えても、そこに意味を見出していく、それはすべてに通じること。

人生そのものを語っているようだ。 他人から見ると無意味だと思われるものでも、自分なりの意義を見出すことができる。

あっという間に楽しいだけの時間が終わる。

始業初日、講義に出席すると、教授が黒板に書き始めた言葉「意味を自ら見出せ」ジェイクの言っていたことと通じる内容だ。

それをみたジェイクは、端から真面目に講義を受けるつもりはなく、すぐに寝始める。

説教臭さなど微塵も感じさせないさわやかな終り。

エンドロールも、登場人物の自己紹介ラップがながれる。最後まで楽しい時間だった。